つくづく桜は、特別な花だと思う。
花の中心が濃いピンクになると散ってしまうソメイヨシノの儚さ、美しさ、寂しさ。
新学期・新年度という新たな旅立ちのタイミングの不安、緊張。
待ちわびた春が到来した喜び。
きっと、誰しもの人生の節目節目の大切な心象風景のいくつかに、桜は存在する。
もうすっかり忘れていたが、私が高校に入学する春休みだったか、桜の季節に、母と弟と3人で、奈良の吉野に旅をした。
天から降るような満開の桜。枝垂桜ではないのに、花の重みで垂れる枝。
舞い踊る花吹雪。
あれほどの見事な桜を間近で見たのは、あの時が初めてで、最後かもしれない。
大学生のころに初めて見た千鳥ヶ淵も感動したけれど、間近、ではなかった。
あの時、母は、何を思っていたのだろう。
花を愛した人だった。
私は、何を思っていたのだろう。
何もかも永遠ではないことは、父の死で知ってはいたけれど、その他のことでは、自分が得ることも失うこともなく、自分を好きになりたいのに嫌っていた日々。