「あなた、小説家になりたいんじゃないの?」と、彼女は言った。
いつものように、すこぶる突然で何の脈略もなかった。少なくとも、僕にとっては。
「『またどうして急にそんなことを言うのかな、この人は?』って顔に書いてある。」彼女は続けた。
「あなたにとって脈絡がなくても、私にとってはあるの。」
「生き延びるためには周りに合わせなきゃ、そうしたほうが得だ、目立つと叩かれる、
自分を表現したいっていう欲求はみんなから受け容れられるくらいほどほどに出せばいい、人の心をざわつかせ過ぎると嫉妬される、だからほどほどが平和だ、
何より上手くいかなかったときにカッコ悪いじゃないか、嘲笑されるなんてごめんだ、
それに小説を書き上げたこともないし、一度か二度書いたけど結局最後まで書き終えられなかった、そんな自分には才能のかけらすらない、
周りを見てみろ、文章が上手い人なんていくらでもいる、上手いだけじゃなく表現すべき体験や価値観や審美眼やセンスを持っている人だっていくらだっている、それに比べて自分なんて、
それにそもそも自分には人に訴えたい伝えたいストーリーを創る才能がない、
だいたい僕をいくつだと思っているんだ、今更そんなことにチャレンジする時間的余裕もなければ経済的余裕もない、僕は守るべきものがたくさんあるんだ、
ずーっとそう自分に言い聞かせ続けてきたでしょう?
・・・・まだまだあるけど。」
「当たらずとも遠からず、かな。」
立て板に水モードに入った女性には、口数少なくなるに限る。無言だと絡まれるし、話し過ぎると議論になって最悪ケンカになるからだ。
「でも、どうしてそう思うのかな?」そして、質問で返すこと。
「どうして?」
そんなことも分からないの、とでも言いたげに彼女は言う。
「私はあなた、あなたは私、だからよ。」
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皆さま、こんにちは!愛し合っていますか
たまに戦う弁護士の小川正美です。
今日は趣向を変えてショートショートの小説風にしてみました。
パートナーの男女の会話なのか、
1人の人間の内なる男性性と女性性の対話なのか、
皆さまのご想像にお任せします♡