このブログでご紹介したことはなかったかもしれませんが、私のクライアントさんで、静岡県の東の県境、小山町に住んでおられた岩田たに泉さんという方がいらっしゃいました。
大正15年生まれ、私が知り合った時はすでに80歳を超えており、長らく中学校の国語教員をされて、引退後は小山町の町会議員も務めておられた、山と自然をこよなく愛する方でした。
岩田さんは、西丹沢の富士箱根トレイルというハイキングコース上に、独創的かつ登山者への思いやりに満ちた道標を160本以上自作して建ててきましたが、自治体の道標に誤った内容があったことを厳しく批判したりしたため、小山町側と道標をめぐって対立し、刑事・民事事件に発展、その過程で私が弁護人・代理人になったという経緯がありました。
事件終結後、小山町側とは訴訟上ではない和解をし、2017年に、岩田さんはお亡くなりになりました。
岩田さんの案件については、生前からご本人がメディアで取り上げられることを希望され、毎日新聞沼津支局やTBSの報道特集等でも取り上げられましたし、後述の書籍出版に関しご遺族のご了承も得ておりますので、守秘義務に反しないことを申し添えます。
その岩田たに泉さんが、平成6年から20年以上にわたって設置してきた手作り道標の記録書籍『道しるべに会いに行く』。
購入予約をしたところ、風人社さんからご贈呈頂きました。ありがとうございます。
思えば、私が岩田さんに初めてお会いした日、岩田さんからの道標絡みの案件のご依頼を受けるかどうか悩み、夜、自宅のパソコンで岩田さんのことを検索したところ、この唯一無二の道標の写真がたくさん現れたのでした。
「これは、アートだ。私ができることはしなければならない。」
と、使命感のようなものに突き動かされて、弁護を引き受けました。
こうして書籍となり、改めて、山岳写真家三宅 岳さんの道標の写真や著者の浅井紀子さんの道標の記載の丹念な書き起こしを拝見していると、岩田さんの博識や山への愛、ハイカーへの愛、偉大な創造性、そしてお茶目だけど頑固な不思議な魅力を思い出し、心が震えます。
また、この本に携わった皆様の思いに触れ、岩田さんが自然を愛する多くの人々からも愛されていたことに安堵し(僭越ですが。岩田さんは大変な愛妻家だったので奥様を亡くされた時はとても心配しました。)、
愛が循環してるなあ。 と、目頭が熱くなったのでした。
岩田さんの事件を弁護していた頃の私は今よりももっと未熟で、高裁で逆転判決を得たものの、100%満足行く内容ではなく、考えてもせんないこととは十分理解しながらも、今の私ならもっと良い結果を得られたんじゃないか、という後悔に似た思いを持ち続けていました。その時の自分には、それが精一杯だったんだと分かってはいても。感謝を伝えられたとしても。
でも、そろそろ自分を許そうかな。と思いました。
だって、岩田さんは、きっと、あっちで笑ってると思うから。
とても素敵な本です。 自然を愛する多くの方にご覧頂きたいなと思います。
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