★前回のお話はこちら。
「夢を夢のままにしておけば、諦めないで済む。」ふと、僕は思いついた。思いついた瞬間、口から言葉がこぼれ出た。
「どうやら僕は無意識のうちにそう思っていたのかもしれないね。」
「夢を叶えるよりも、まずは、安心安全だろう。命あっての夢だろう・・・あなたがそんな風に思ってくれているのかも、って私も感じてた。」彼女は言った。
「でも、もう、あなたは、十分に大人だわ。知力も肉体も精神も。」
「もっと自由になっていいのよ。」
「でも、君のことが・・・」思わず僕は言った。
次の瞬間、もう一人の自分が僕に問うた。
---お前は、人のためを思っているフリをして、これまで何度自分の本音を偽ってきた?
僕が自分に意識を向けることに集中していて彼女の存在を忘れていることに気が付いたのか、彼女は少し前のめりになって僕の目をじっと見つめた。
しまった、また機嫌を損ねたかな、説教されるかな、と思いきや、彼女は穏やかににっこりと微笑んだ。
「もしかして、小説家になりたいのは、あなたの夢だと思っている?」
さっき、あなたの夢なんでしょ、と言ったその口で、何を言い出すのか。
「小説家になりたいのは、私よ。」
「私の夢なの。」
「あなたには、私の夢を叶えて欲しいの。」
「だから、お願い。諦めないで、小説家になるにはどうしたらいいのか、まず何をするのか、考えて実行して欲しいの。」
僕は、混乱してきた。僕の夢、じゃなくて、彼女の夢?彼女の夢を叶えるために、僕が小説家になるべく頑張る??
「ちょっとよく分からないけど。小説家になるには、まずは作品を書かなきゃ始まらないよね。それから、手の届きそうもない夢を叶える時は、まずマインドづくりから、っていうのも言われるよね。」
「正直なところ、子どものころに僕が小説家になりたいと思っていたのは確かだ。夢だった、と言ってもいいと思う。でも、それを、僕の夢として、僕が叶えるんじゃなくて、君の夢として、僕が叶える、ってどういうこと?さっき、君は僕に対して『小説家になりたいんでしょう?』って言っていたよね。」
文句の一つくらいは言ってもいいだろう。だって、理屈が通っていないんだから。文句に聞こえないように注意深く、僕は彼女に尋ねた。
彼女はあっけらかんと答えた。
「私はあなた、あなたは私、だからよ。さっきも言ったとおり。」
「あなたならできるわ。あなたの知性、経験、知見、視野、人間観察能力、情報収集能力、人脈形成能力、成長意欲、人間的魅力、器、勘の良さ、運の良さ・・・ええと、あと何を言えばいい?まだまだあるわよ。」
「あなたは、あなたが思っている以上に素晴らしいし、たとえあなたが自分のことを嫌いになって責めたとしても、私はずっとあなたの味方よ。あなたのことをずっと好きだし、周りの人がみんな敵になっても、あなたという人間を諦めない。」
「だから、あなたは、夢を叶えることができる。」
その時、トントントン!と部屋をノックする音が聞こえた。
僕は、後ろを振り返り、ドアの方を見た。
一瞬ののち、視線を戻すと、そこには誰もいなかった。
僕は、いったい、誰と話していたんだろう?
そもそも、彼女は、何者だったんだ?彼女は僕を非常によく知っており、僕も彼女をよく知っていた「気がする」けれど。
窓の外に、大きな丸くて赤い月が東から昇ってきた。
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皆さま、こんにちは!愛し合っていますか?
たまに戦う弁護士の小川正美です。
前回の続きを書きました。
一応、お話としては一区切りついた気がします。
本当に久しぶりに、かれこれ30年くらいぶりに(笑)、物語を書きました。
私の中で、物語を書くことはどこかタブーになっていて、プロットを創ることすらしていませんでした。そう、この物語の主人公「彼」は私なのです。
そして、夢を見てワクワクし「彼」を叱咤激励する「彼女」も私なのです。
「私には物語を創る才能なんてない」と自分に制限を設けて長い間封印してきましたが、長い長い年月を経てみたら、その間の小説、映画、ドラマ、私自身の人生経験、弁護士として関わった様々な人間ドラマ、心理学、スピリチュアル、ビジネスといった経験は全てインプットだったんだな、と感じました。
これらの体験を物語を創作するという形でアウトプットすることにより、私の中でも、自分の頑張り過ぎやおそれが癒されたと感じます。
物語創作で男性性と女性性の統合を試みるという実験は、ひとまず成功かもしれません。